sss

研究内容

1.光合成反応中心のエネルギー変換機構

1-3. ヘリオバクテリアの反応中心
 ヘリオバクテリアは、1983年にはじめて見つかった光合成細菌で、研究の歴史そのものが新しい細菌です。このヘリオバクテリアのもつ反応中心も系I型であり、しかもホモダイマー構造をもつものと推測されています。私たちはこの細菌からも反応中心複合体を単離・精製することを試みています。緑色イオウ細菌の反応中心と比較しながら、電子伝達機構の解析を行っていこうとしています。1997年にコアタンパクを単離することに成功して以来(Noguchi et al. 1997)、その分光学的諸性質の解析に取り組んでいるところです。

膜結合型チトクロムc (PetJ)の反応特性
 反応中心P798に直接電子を渡すのが膜結合型チトクロムc (PetJ)です。しかしながらこれまで、その光酸化活性が非常に低くて不安定であることが問題でした。私たちは2価カチオン(Mg2+)の添加により著しく酸化活性が回復することを見いだし、その反応特性について詳細に報告しました(Oh-oka et al. 2002)。また膜結合型チトクロムc (PetJ)を介し、反応中心とキノール酸化還元酵素とが直接つながっていることを実験的に証明することにも成功しました。チトクロムc (PetJ)のN末端システイン残基には脂肪酸が共有結合していて、膜にアンカーしていると推測されています。

         

Fe-SセンターX(FX)の検出
 ヘリオバクテリアの反応中心は光化学系1反応中心と同様に、3つのFe-Sセンター(FA, FB, FX)を持つと推測されていました。1990年には膜標品のESRスペクトルからFAおよびFBのシグナルを検出したという報告はあるのですが、FXの情報については皆無でした。唯一、コアタンパクの一次構造比較から、光化学系1反応中心に存在するFXと同様の[4Fe-4S]クラスターを持つと推測されていたにすぎません(1993年)。私たちはヘリオバクテリアの膜標品を用いて、初めてFXのESRスペクトルを観察することに成功し、FXの諸性質を報告しました(Miyamoto et al. 2006年)。極低温でも光蓄積しないことから、シアノバクテリアや植物光化学系Iで報告されているFXとは大きく異なる環境に存在することが示唆されています。
(参考文献)R. Miyamoto, M. Iwaki, H. Mino, J. Harada, S. Itoh, and H. Oh-oka (2006) ESR Signal of the Iron-Sulfur Center FX and its Function in the Homodimeric Reaction Center of Heliobacterium modesticaldum Biochemistry 45: 6306-6316

二次電子受容体A1の検出
 今まで説明してきましたが、緑色イオウ細菌やヘリオバクテリアのもつ反応中心の電子移動経路は、光化学系I反応中心と類似していることが期待されています。しかしながら、二次電子受容体A1として機能するキノン分子の存在については、長く論争の的でした。光化学系I反応中心と異なり、電子はA0からFXに直接飛んでいくという大胆な説を唱える研究者もいました。それでもよく考えてみると、マーカスの電子移動理論をちゃんと理解しておれば、そんなことは絶対にないはずです。電子移動理論からは、A0とFXの間に何かの電子伝達成分が存在しない限り、A0からFXの直接の電子移動には100マイクロ秒からミリ秒の時間が必要です。観測されている分光データは、A0-は500-700ピコ秒で減衰しますので、何かの成分が存在しなければなりません。2008年(Miyamoto et al.)、ヘリオバクテリアから調製したコア複合体を用い、光蓄積後の極低温下(4-10 K)において、フラッシュ照射後に過渡的に出現するESRシグナル(スピン分極状態)を検出しました。すでに暗処理標品(非光蓄積標品)においてはP+FX-に由来するスピン分極状態が報告されていますので、新たに検出されたシグナルはP+A1-の電化分離状態を反映したものであると結論づけました。しかしながら現時点において、opticalな過渡吸収データとの整合性はありませんので、今後は極低温下での過渡吸収測定等を行って、反応の詳細について検討していく必要があります。
(参考文献)R. Miyamoto, H. Mino, T. Kondo, S. Itoh, and H. Oh-oka (2008) An electron spin-polarized signal of the P800+A1(Q)- state in the homodimeric reaction center core complex of Heliobacterium modesticaldum Biochemistry 47: 4386-4393.
                 
     P+A1-に由来する新規なESP信号(PSIではEAE型であるがヘリオRCではAEAE型である)

          
               二次電子受容体結合部位周辺のモデリング図



Home