第28回「光合成セミナー2021」

講演会内容

講演会 1

「立体構造解析のイロハ 〜光化学系膜タンパク質複合体を例に〜」
加藤公児(岡山大学異分野基礎科学研究所)

生体分子の立体構造は、その分子構造の緻密さを見て取れるだけではなく、生体分子の機能を理解する上で多くの情報を与えてくれる。従来、生体分子の立体構造解析手法といえば、X線結晶構造解析法や核磁気共鳴(NMR)法が主流であった。それらに加えて、クライオ電子顕微鏡(電顕)単粒子解析法が近年急速に発展しており、比較的容易にタンパク質や核酸などの分子構造を高精度に決定できるようになった。これまで結晶化が困難である、または分子量が大きすぎるなど理由から構造解析が断念されていた膜タンパク質や超分子複合体に対して、クライオ電顕単粒子解析法が適用され構造が決定されている。しかしながら構造生物学を専門としない研究者にとって、タンパク質の立体構造に親しみが持てず、構造情報に誤解を生じている部分があるかもしれない。本講演では、我々が構造解析を進めている光化学系タンパク質複合体を例にとり、X線結晶構造解析法とクライオ電顕単粒子解析法のそれぞれのメリット、また得られた構造データをどのように評価し、その情報をどのように読み解くかを紹介したい。

講演会 2

「微細藻類の遠赤色光への順化と適応」
宮下英明(京都大学大学院人間・環境学研究科)

酸素発生型光合成に利用可能な光の波長範囲は、光合成有効放射と呼ばれ、おおよそ 400-700 nm の可視光領域であるとされてきた。しかし近年、多様な微細藻類が700-750 nm 付近の光(以降「遠赤色光」と呼ぶ)のみを利用して光合成生育・生残できることが明らかにされつつある。微細藻類が遠赤色光を利用する仕組みには、3つの方法が知られている。Chl dを反応中心・アンテナ色素として利用する方法、Chl f を誘導してアンテナ色素として利用する方法、Chl aの光吸収を長波長側にシフトさせたアンテナ色素(レッドシフトChl a)を利用する方法である。前2者はシアノバクテリアのみに見られる適応および順化である。真核藻類には、Chl dやChl f など特別なクロロフィルをもつものは見出されていない。レッドシフトChl aを利用する方法は、シアノバクテリアだけでなく多くの真核藻類に見出されている。遠赤色光のみを利用して生育・生残できる真核生物には、遠赤色光に順化するものが多く見られる。さらに、すでに遺伝的に適応していて白色光照射下においても遠赤色光を吸収・利用して酸素発生型の光合成を行うものも見出されている。本発表では、当研究室で分離されたものを中心に、遠赤色光を利用して生育・生残できる微細藻類の多様性とそれらの遠赤色光適応および順化について紹介する。研究材料としてご興味ありましたら是非お声がけください。

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