第27回「光合成セミナー2019」

講演会内容

講演会 1

「単一タンパク質分光で観る光合成光反応の動的制御機構」
近藤 徹(東北大学、JSTさきがけ)

 これまでの光合成研究には少なくとも2つの大きな流れがある。1つ目は、X線結晶解析に代表されるタンパク質の構造解明に向けた流れである。もう一方は、超高速レーザー分光による光反応ダイナミクスの研究である。これらの結果、構造と光反応を相互にリンクさせた議論が可能となった。では、これで光反応機構を完全に理解したことになるのだろうか?この問いに対して否を突きつけたいというのが、本講演の趣旨である。
 通常、タンパク質構造というと“静的な”構造を意味する。一方、生理環境下でタンパク質の構造が固まっているかというと、そうではない。分子動力学計算などで予想されるように、熱的に揺らいでいる。また、光反応それ自体も構造に摂動を与え得る。これらの不規則または微小な構造変化は光反応に大きく寄与するはずである。このような“動的な物性”が生体系の本質かもしれない。しかし、これを実験的に解析・検証するのは意外に難しい。通常の分光測定はアンサンブル系(~1013個に及ぶ多粒子系)を対象にするため、これら動的効果は平均化されて解析できない。そこで本講演では、タンパク質を1つ1つ分離して解析する分光手法を紹介する。特に、光捕集アンテナの非光化学的消光(NPQ)機構の解析例から、生体内ではタンパク質の動的な性質が上手く利用されていることを示す。動的な挙動を含めた生体系の真の姿を理解することが、今後益々重要となるだろう。

講演会 2

「光化学系膜タンパク質複合体のクライオ電顕構造解析」
長尾 遼(岡山大学)

 生物研究者にとって、自身が研究対象とするタンパク質がどのような立体構造を取るのか、多少なりとも興味があると思われる。タンパク質構造を見る手段は何か?と問われた際、X線結晶構造解析が真っ先に挙がると思うが、一方でその分野の困難さや専門性の高さについて実際に経験したことの無い人でも噂ぐらいは耳にしたことがあるだろう。X線結晶構造解析の高い壁を目の当たりにし、踵を返したケースが多々あったと想像される。しかし近年、クライオ電子顕微鏡単粒子解析の技術革新により、X線結晶構造解析に比べれば容易にタンパク質構造が原子レベルで解明できるようになった。こうした背景から、クライオ電顕=簡単に構造解ける、と思いがちであるが、実際のところはまったくそうではない。生物研究者がタンパク質構造研究にアクセスしやすくなったのは事実であるが、やはりそこには構造生物分野の深い技術があり、素人が一から独自に始めることは非常に困難であることには変わりない。本講演では、私のような生物研究者が如何にしてクライオ電顕構造解析を行ったか、当研究グループによる光合成膜タンパク質の解析例を交えて紹介する。また、クライオ電顕により加速度的に成果が挙がるようになった昨今の構造生物分野に対し、生物研究者はどのように取り組むべきか、私なりの意見を提案する。

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