第21回 光合成の色素系と反応中心に関するセミナー 本文へジャンプ


講演会1
「顕微分光の基礎・発展と葉緑体・シアノバクテリアへの応用」

熊崎茂一(京都大学大学院理学研究科)

 私本人の研究内容も多少は交えつつ、しかしそれに限定せず、葉緑体やシアノバクテリアのチラコイド膜の性質の研究のために望ましい光学顕微鏡、顕微分光はどんなものかと言うことに関する技術的現状の概観、将来展望について私の考え方を示します。明視野像、蛍光、吸収、散乱、振動分光法等の異なる顕微分光法の他、励起方法の問題(1光子励起と多光子励起、多焦点励起と1点励起)、従来の回折限界を超える顕微光学技術(超解像光学の一部等)も含んでそれらの長所、短所などを解説する予定です。しかし、こんな山盛りの内容を限られた時間で話すことは多分無理なので、どんな形に落ち着くのでしょうか? 精一杯無理して準備してみます。


講演会2
「超複合体再編成による光合成環境適応」
○皆川純,得津隆太郎(基礎生物学研究所)
 緑藻と高等植物は良く似た光化学系を有し,光環境についてよく似た適応をする(1).われわれは,いくつかの光環境適応様式に着目し,緑藻クラミドモナスを題材にその特徴的な生理状態を突き止め,生化学的手法による分子基盤の研究を行なっている.本講演では,最近進めている強光適応に関する研究について紹介する.一般に光合成生物は真夏の直射日光のような強い日差しに弱く,その被害を最少に食い止めるために幾段もの防御機構を発動する.PSIIが集めた光エネルギーを光化学反応に使わず熱として排出する仕組みであるNPQもそのような防御機構の一つである.NPQの中でも,強光によって蓄積される葉緑体チラコイド膜ルーメン内のH+による負のフィードバック作用としてPSII集光アンテナ内でおこるエネルギー消去機構を特にqEクエンチングと呼ぶ.2009年,qEクエンチングを起こさない変異株としてクラミドモナスの変異株npq4が報告された.npq4は集光アンテナタンパク質ファミリーの1つLHCSR3にマップされたことから,LHCSR3がいかにqEクエンチングを起こすかが焦点となった.今回われわれは,クラミドモナスの野生株とnpq4株から新しい方法(2)によりPSII-LHCII超複合体を単離した.強光条件の野生株ではLHCSR3が検出されたが,弱光条件の野生株でも,また(光条件にかかわらず)npq4でもLHCSR3は検出されなかった.強光条件の野生株から単離されたPSII-LHCII-LHCSR3超複合体のクロロフィル蛍光寿命を調べたところ,強光条件のルーメンを模した酸性条件において特徴的な短寿命化が見られた.われわれは,この短寿命化の原因が,酸性条件でLHCSR3 にH+が付与され,PSII-LHCII-LHCSR3超複合体内に熱散逸経路が形成されることによるものと結論した(3).さらにLHCSR3はステート遷移時にPSI-PSII間を移動することも示され,緑藻では、ステート遷移とLHCSR3によるqEクエンチングが協調し強光適応が実現されていることが明らかとなった(4).
1) Minagawa, J. (2011) Biochim. Biophys. Acta, 1807: 897-905, 2) Tokutsu, R. et al. J. Biol. Chem. (2012) 287: 31574-31581, 3) Tokutsu, R. and Minagawa, J. (2013) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., Epub, (4) Allorent, G., et al. (2013) Plant Cell 25: 545-557.


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