「光合成光捕集過程を精密科学として理解することを目指して」
柴田 穣(東北大学大学院理学研究科)
21世紀に入り、植物の光合成タンパク質の構造が次々に明らかにされた。このことは、複雑な植物の光合成タンパク質で起こる超高速の光反応をその構造に立脚して物理法則に基づき理解することが原理的には可能となったことを意味している。しかし、解明された構造からは予想が難しい物理量が多くあるため、構造に立脚した光反応ダイナミクスの理解はなかなか進展してこなかった。一番の難問は、タンパク質に結合する多数のクロロフィル分子それぞれの励起エネルギー(サイトエネルギー)を決定することである。それぞれのクロロフィルは異なるタンパク質部位に結合するため、それぞれに異なる励起エネルギーを持っているのだ。このような中、既知のスペクトルデータへのフィッティングという手法により求めたクロロフィルのサイトエネルギーを用いて、植物型光合成タンパク質の光反応を解析する理論モデルが報告されている。講演では、光合成光反応を構造に立脚して理解しようという試みについて、最近の進展を議論する予定である。
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