第24回 「光合成セミナー2016:反応中心と色素系の多様性」 本文へジャンプ


講演会1
「光合成光捕集過程を精密科学として理解することを目指して」
柴田 穣(東北大学大学院理学研究科)

21世紀に入り、植物の光合成タンパク質の構造が次々に明らかにされた。このことは、複雑な植物の光合成タンパク質で起こる超高速の光反応をその構造に立脚して物理法則に基づき理解することが原理的には可能となったことを意味している。しかし、解明された構造からは予想が難しい物理量が多くあるため、構造に立脚した光反応ダイナミクスの理解はなかなか進展してこなかった。一番の難問は、タンパク質に結合する多数のクロロフィル分子それぞれの励起エネルギー(サイトエネルギー)を決定することである。それぞれのクロロフィルは異なるタンパク質部位に結合するため、それぞれに異なる励起エネルギーを持っているのだ。このような中、既知のスペクトルデータへのフィッティングという手法により求めたクロロフィルのサイトエネルギーを用いて、植物型光合成タンパク質の光反応を解析する理論モデルが報告されている。講演では、光合成光反応を構造に立脚して理解しようという試みについて、最近の進展を議論する予定である。


講演会2
「ヘテロシスト形成型シアノバクテリアを利用した水素生産の現状」
井上 和仁(神奈川大学理学部)

一部のシアノバクテリアは窒素栄養欠乏下でヘテロシスト(異型細胞)を分化し、内部で窒素固定酵素ニトロゲナーゼを発現する。ヘテロシスト内部は酸素濃度が低く保たれていて、光合成を行いながら酸素感受性であるニトロゲナーゼによる反応が進む。ニトロゲナーゼが触媒する反応では必然的副産物として水素を発生するが、反応は不可逆的で夜間など光合成が停止する条件下でも生産した水素を再吸収することがない。我々はこの生物を遺伝子工学的に改良し、また、培養条件を工夫することで長期にわたって水素を持続的に生産させる研究を進めている。本セミナーでは我々の研究の現状と課題について報告する。


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