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                                活動依存的なシナプス新生(1)

ラット新生仔大脳から調整した海馬の切片は、十分な酸素と栄養を供給すれば、1ヶ月以上生かし続けることができます。切片培養といいます。これを使えば、日から週におよぶ長期の現象が追えるはずです。また脳の中にあるのと違って、途中の過程を刻々観察することができます。薬品の投与もできますし、遺伝子発現の操作も可能です。私たちは最近、この培養切片を繰り返し刺激すると、新しいシナプスが作られて、回路が増強されることを見つけました。1回だけでは短期可塑性(既存のシナプスの強化)にしかならず、1週間以上持続する長期にするためには、間隔をあけて3回以上繰り返すことが必要でした。今私たちは、1回目と3回目では何が違うのか、間隔の間に何が起きているのかをつきとめようとしています。

ラット海馬の切片培養

神経細胞の核蛋白NeuNに対する抗体で染色すると、神経細胞が生体内と同じ配置で並んでいるのがわかります。

             

ラット海馬の分散培養

酵素処理で細胞をわけてからシャーレ上にまくと、神経細胞は多数の突起を伸ばしながら、互いにシナプスを作ります(この写真はシナプトフィジン(赤)とドレブリン(緑)の抗体で染色したもの)。

活動依存的なシナプス新生(2)

分散培養(細胞を一個一個ばらばらにして培養する方法)は、神経細胞の元々の配置を失ってしまいますが、そのかわり個々の細胞をより詳しく観察できる利点があります。そこで、切片培養で観察された繰り返し刺激による長期的シナプス新生が、分散培養系でも再現できるかを調べています。また、分散培養系には、回路を保存した切片を作るのが難しい脳部位(たとえば大脳新皮質)についても公平な条件で比べられるという利点があります。長期的シナプス新生をする能力が、一部の神経細胞にだけ備わった性質かどの細胞にも備わった性質かなどの問題について、解答のヒントがえられると期待されます。

             

不活動依存的なシナプス廃止

ラット新生仔小脳から分離した顆粒細胞という神経細胞は、そのままでは培養できず、外から興奮剤(カリウムやグルタミン酸など)を与えてはじめて培養できます。その機構には、「興奮によって細胞内Ca濃度が高く維持されていることが生存に必要」とする仮説が行われていましたが、私たちが実測するとそんなことはありませんでした。Caが多く流入する分Caくみ出しも多く、トータルは同じなのです。では何が違うかというと、膜直下の局所的なCa代謝とエキソ・サンドサイトーシス活動でした。おそらく神経栄養因子のような分子の放出と取り込みが盛んに行われているのだろうとかんがえられます。この新仮説はまだ世界的に認知されていませんが、私達は個々のシナプスのレベルでも同じことが起きていると考えています。自発的に活動している神経細胞に薬を与えて活動を止めると、必ずまずシナプスが減り、ついで細胞突起が減り、最後に細胞死が起きるという順番で「病状」が進行するからです。

小脳顆粒細胞の電子顕微鏡写真

培養小脳顆粒細胞どうしはシナプスは作りませんが、突起上にコブ状のふくらみをもち、そこに多数のシナプス小胞を蓄えています。この部位でエキソ・エンドサイトーシスを行っており、シナプス前構造に相当するものといえます。

               

ラット小脳アストロサイトの単層培養

小脳組織を分散培養し植え継いでいくと、増殖能力のない神経細胞はなくなり、グリア細胞だけになります。さらに培地を揺すって表面の細胞を除くと、アストロサイトだけがシャーレを単層に覆う純粋培養になります(この写真はアストロサイトのマーカー蛋白(GFAP)を染色したもの)。

グリア細胞の機能

脳は神経細胞だけからできているのではなく、それ以上の数のグリア細胞があります。かつては、グリア細胞には、機械的支持や細胞周囲の環境維持といった下請け的な役割しか考えられていませんでしたが、最近、神経細胞の発芽を起こしたり生存を許可したりする信号分子(神経栄養因子と総称します)を合成・放出していることがわかってきました。また、グリア細胞は細胞間で盛んに情報伝達をしていることもわかってきました。これまであまり研究対象にならなかったグリア細胞に、新たなスポットライトを当てようと思います。