第23回 「光合成セミナー2015:反応中心と色素系の多様性」 本文へジャンプ


講演会1
「藻類の多様性を利用して光化学反応の理解に迫る」
鞆達也(東京理科大学 理学部)

光合成機能を明らかにするうえで、多様性を「摂動」として捕らえることにより新たな知見を得ることが可能になる。とりわけ、藻類は多様性に富むことから実験材料としての優位性を備えている。光化学系においては、色素・タンパク質組成の多様性が藻類に多く存在することが知られている。光化学系II表在性タンパク質は種ごとに多様性および普遍性が存在し、酸素発生の安定化に関与している。光合成色素においては、カロテノイドはとりわけ多様性が大きく、クロロフィルにおいても低エネルギー側に吸収極大をもつ色素が近年見つかっている。我々は、これらの多様性のある藻類から光合成光化学反応において普遍的なエネルギー変換の原理を明らかにすることを目指しており、本講演では最近の知見を紹介する。また、それら多様性を利用した応用研究についても紹介したい。


講演会2
「プロテインがときめく全反射赤外分光法」
岩城雅代(名古屋工業大学 しくみ領域)

タンパク質の分光分析は、まず色素タンパク質の研究において威力を発揮し、分子の電子状態や振動モードをもとに酵素反応が詳細に記述されてきました。しかし、細胞内の多くの酵素は、色素を持たず、光にも応答しません。それらが機能発現するとき、どのような構造変化を起こすのでしょうか。演者らは、汎用性の高い全反射赤外分光法を、バイオ仕様に特化すべく改良を行い、基質結合やpH変化等、細胞内で起こりうる様々な化学刺激に応じて変化するタンパク質の分子構造を差赤外吸収スペクトルとして捉えてきました。光合成関連タンパク質についても未開拓の問題を新たに掘り起こすことができるかもしれません。お気に入りの物質と相互作用するとき、タンパク質はときめいて輝きます。本講演では、この手法を用いることによって《プロテインがときめく》様子をリアルタイムで追う楽しさを紹介します。


講演会3
「人工光合成の実現を目指した半導体-錯体ハイブリッド触媒の開発」
佐藤俊介(豊田中央研究所)

太陽光と水を用いてCO2を還元する研究は、再生可能エネルギー源の創製およびCO2排出問題の解決にむけて重要である。現状において、太陽光で最も効率よくCO2を有機物へと変換できるのは植物の光合成である。植物は、水・CO2・太陽光を用いて糖を作り出す。もし、この反応が人工的に行えればと、誰もが理想を描くが、光合成はいくつもの触媒・反応・機能が組み合わさった芸術的な反応であるため、その模倣は容易ではない。そこで我々は、太陽光と水を用いてCO2を有機物に変換することだけに着目し、それを実現するために新しいコンセプトのCO2還元光触媒の開発を取り組んだ。本講演では、半導体と錯体触媒を組み合わせた新規CO2還元光触媒と、その触媒と太陽光と水を用いてCO2をギ酸へと変換する最近の研究成果について報告する。


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