Research
 

セントロメアに於けるDNA相同組換えの役割

染色体セントロメアにはCENP-Aクロマチンやヘテロクロマチンなどの特徴的なクロマチン構造がつくられる。また、ヒトを含む多くの真核生物のセントロメアDNAはリピート配列により構成されている。分裂(M)期微小管と染色体との接着部位としてセントロメアは染色体分配をつかさどることから、ゲノム維持に中心的な役割を果たす染色体領域であると云える。ところが、セントロメアは染色体再編が起こり易い染色体脆弱部位でもある。したがって、生物はセントロメア領域を維持するための特別なシステムを備えていると考えられるが、その詳細は明らかとなっていない。

 我々は相同組換え因子Rad51が細胞周期の複製(S)期特異的にセントロメアに結合し、セントロメアの再編を抑制することを明らかにした。このことから、DNA組換えはセントロメア領域の維持で重要であると考えられる。分裂酵母のセントロメアは、比較的単純なリピート配列により構成されていることから様々な改変を施すことができる。また、高等真核生物と共通したクロマチン構造をつくる。このようにセントロメア研究に最適なモデル生物である分裂酵母を用いて、セントロメア組換えの分子機構とその生理的意義の解明を目指している。

染色体の安定維持機構

ポストゲノム時代に突入した現在、ヒトをはじめ多くの生物種のゲノム配列は解き明かされた。しかし、遺伝情報を担う染色体がどのようにして正確に複製し、均等に娘細胞に受け継がれているのかは解明されていない。たった1つの受精卵が分裂を繰り返して約60兆個の細胞になってヒトになること、また、そのようにしてできた細胞の一つ一つが同じ遺伝情報を持つことから生物には染色体を維持するための驚異的なメカニズムがあると考えられる。

 染色体領域の大きな再編による染色体異常は癌などの遺伝病や老化を引き起こすことが知られている。我々の研究グループは、染色体の安定維持の分子機構を明らかにするために分裂酵母をモデル生物に用いて様々な分子遺伝学解析を行うことで、DNA複製、組換え、修復、エピジェネティック制御、染色体分配などの『遺伝情報維持学』を行っている。

DNA複製の制御機構

真核生物の染色体上には多数の複製起点が存在し、その数はゲノム全体で数百〜数千にまで至る。ただし、個々の細胞を見たとき、それら全ての複製起点から複製開始(発火)が起こる訳ではなく、実際に発火が起こるのはその一部であり大部分の複製起点からの発火は起きない。この「複製起点パラドクス」とも呼べる現象がなぜ起こるのか。その答えは未だ明らかではないが、複製起点の数が減少すると複製ストレス感受性の増大、染色体異常、発生異常、がん化など様々な問題が生じることから、生理的に重要な意義を担っていると考えられる。

 遺伝情報を正確に娘細胞に伝えるためには、その担い手である染色体DNAを全長に渡って正確に複製することが必要である。また、このときDNA分子だけでなくヒストン修飾などのエピジェネティックなゲノム情報も正確にコピーする必要がある。また、様々な内的・外的要因により複製の進行は邪魔される為、複製フォーク(複製中間体)はこれらの状況にも適切に対応して染色体の倍加を達成しなければならない。このように、DNA複製は実に複雑なことをやり遂げているが、その分子メカニズムは謎のままである。我々は複製起点の構成因子であり複製フォークの駆動部でもあるMcm2–7ヘリケースに着目して「DNA複製によるゲノム維持」の分子メカニズムを明らかにしたいと考えている。


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