ニハイチュウとは?

ニハイチュウは主に底棲のタコやイカの腎臓内を生活の場とする複雑な生活史をもつ体長数ミリメートルの多細胞動物である。その体は単純で、一般に細胞数は種によって一定であるが、総数はふつう22個前後で、最多でも50個にも及ばない。ニハイチュウは多細胞動物の中でもっとも少数の細胞からなる動物である。その発見は古く18世紀末にイタリアのF. Calvoliniがタコの体内にそれらしい蠕虫状の微小動物を発見したという。1839年、ドイツのA. Krhoneはそれを記載してDicyemida(ニハイチュウ類)と命名した。その後、1876に年ベルギーのVan Benedenはニハイチュウ類を原生動物(Protozoa)と後生動物(Metazoa)との中間に位置するとし、中生動物門 (Mesozoa)を創設した。中生動物門にはかつて後生動物に含められない所属不明の小型多細胞動物が無差別にもちこまれたが、所属の明らかになった動物群は除かれ、それから長い間、ニハイチュウ類と直泳類が中生動物門を構成してきた。しかし、直泳類とニハイチュウ類とはそれぞれ独自の形質をもつ独立の動物群であり、近年、これらはDicyemida(二胚動物門)とOrthonectida(直泳動物門)としてそれぞれ独立の門として扱われ、同時に中生動物の名は単に一つの進化段階を表すものとなりつつある。


生活史
ニハイチュウ(二胚虫)の名は無性的に生じる蠕虫型幼生(vermiform larva)と有性生殖によって生じる滴虫型幼生(infusoriform larva)の2種類の幼生(胚)がみられることに由来する(図)。蠕虫型幼生を生じる個体は通常無性虫(ネマトジェンnematogen)と呼ばれ、滴虫型幼生を生じる個体は菱形無性虫(ロンボジェンrhombogen)と呼ばれる。生活史は腎嚢中での増殖にかかわる蠕虫型段階と、新宿主へ到達する滴虫型段階とに分けられる。腎嚢中ではニハイチュウの個体数が少ないとき、無性生殖によって蠕虫型幼生を生じ、個体数を増す。腎嚢内での個体数が増加すると、通常無性虫と蠕虫型幼生は菱形無性虫へ相転換するとされる4)。菱形無性虫の軸細胞内ではインフゾリゲン(infusorigen)と呼ばれる両性生殖腺が形成され、そこで自家受精した受精卵からは滴虫型幼生が発生する。滴虫型幼生は尿とともに海水中に泳ぎ出て、新宿主に寄生すると考えられている。新宿主に到達したのち、軸細胞を2〜3個もつ幹無性虫(stem nematogen)と呼ばれる個体を経て通常無性虫になるといわれているが、実際に滴虫型幼生がどのような過程で無性虫へと発生するかは不明である(図の点線の部分)。なお滴虫型幼生が変形あるいは変態をするわけでなく、内部の芽胞細胞から無性虫がつくられることは確からしい。

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