オルガネラバイオロジー研究室

Laboratory of Organelle Biology

准教授
中井正人 (Masato NAKAI)
mail nakai @ protein.osaka-u.ac.jp
研究分野

植物科学

所属

蛋白質研究所

ロケーション

吹田地区

研究内容

動物や植物の体を作っている基本単位は、細胞だという事は知っていますね。細胞の中には、ミトコンドリアペルオキシソームや、植物の場合は、葉緑体など、生体膜で囲まれた小区画があって、様々な代謝活動の役割分担をしています。このような、細胞内の区画を、細胞内小器官ーオルガネラと呼びます。一方で、地球上で最初に誕生した生命は、単純な膜構造で囲まれただけのバクテリアだったはず、という事も知っていますね。では、そのようなバクテリアー原核細胞から、どうやって、複雑なオルガネラを持つ細胞ー真核細胞が生じたのでしょうか。そこには、昔、元となった宿主細胞内に共生したバクテリアのオルガネラ化の長い進化の過程が関わっています。私たちの研究室では、植物や藻類の葉緑体を主な研究材料にして、オルガネラ化に伴って確立されてきたタンパク質輸送システムをはじめ、葉緑体バイオジェネシスの様々な事象について、その分子メカニズムと分子進化の解明を目指します。学部生、大学院生、研究員を募集中です。興味を持たれた方は、お問い合わせください。

細胞内共生から始まった葉緑体進化の不思議

 藻類や植物の葉緑体は光エネルギーを化学エネルギーに変換する光合成の場であり、それによって作り出される有機物は地球上の多くの生命を支えています。葉緑体は、シアノバクテリアのような酸素発生型の光合成を行なう原核生物が、10億年ほど前に核やミトコンドリアを持つ真核生物の一種に細胞内共生することで誕生したと考えられています。その後、内共生体が持っていた遺伝子の多くは宿主の核ゲノムへ移行し、新たに加わったものも含め、2000種類を超える葉緑体タンパク質が核ゲノムにコードされるようになりました。これらのタンパク質の合成は葉緑体の外(サイトゾル)で行なわれるため、葉緑体タンパク質だけを特異的に輸送するシステムが葉緑体を包む膜に同時に進化してくる必要がありました。これまで、葉緑体を包む外側の膜(外包膜)に存在するタンパク質膜透過装置は概ね明らかにされていましたが、内側の膜(内包膜)に存在する膜透過装置についてはよくわかっていませんでした。                         私たちは、この葉緑体内包膜のタンパク質膜透過装置の中核因子を同定し、それに単離精製用のタグ配列を付加したシロイヌナズナの形質転換植物を利用することで、この膜透過装置を分子量100万もの巨大分子複合体のまま精製する事に世界で初めて成功し、その構成因子をすべて同定しました(Science, 2013)。通説を大きく覆す事となったこの発見は、シアノバクテリアの内共生による葉緑体の誕生という生物進化上の大イベントの後、これまで考えられていたような、核ゲノムへの遺伝子の転移や付加だけでなく、ダイナミックな遺伝子の変化が葉緑体ゲノム側にも生じ、緑藻類および陸上植物の進化をもたらす一因になったことも示唆しています。なぜ、分子量100万もの巨大な膜透過装置が必要となったのか、どのように成立してきたのか、葉緑体進化の不思議を、さらに解明を続けていく予定です。

葉緑体タンパク質の外包膜・内包膜透過機構の構造ダイナミクス

 生体膜を介してタンパク質のような高分子を輸送するためには、膜バリアを保ったままタンパク質を膜透過させる精巧な分子装置ートランスロコンと呼ばれていますーが必要です。生命は進化の過程で、幾つかの異なるタイプのトランスロコンを生み出してきました。原核生物型でもっとも解析が進んでいるSECトランスロコンの他に、TAT輸送装置、ミトコンドリアのTOMやTIM、ペルオキシソームのPEXなどがそれに当たります、これらは、働く膜系や出現した進化的背景も違うため、その構成因子も輸送メカニズムも大きく異なっています。  植物葉緑体の内包膜の1メガダルトンのトランスロコンTIC、さらに最近同定したTICと付随して働く2メガダルトンのATP依存性の新奇輸送モーター複合体外包膜の1メガダルトンのTOC複合体も含め、これらのメガコンプレックスが、どのような機能的連携により葉緑体タンパク質の膜透過を行っているのか、精製した複合体、超複合体を材料に、構造生物学の手法を取り入れて、その構造と機能のダイナミクスに迫ります。そして、他の膜系で働くトランスロコンとの相違点や類似点を明らかにすることで生体膜を隔ててタンパク質を運ぶという、生命にとって必須の細胞構築原理のひとつの解明に貢献する事ができると考えています。

図0 シアノバクテリアの内共生による葉緑体の誕生 進化の過程で、葉緑体タンパク質の多くは核コードとなり、細胞質ゾルで合成後、輸送されるようになりました。

図1 シロイヌナズナ葉緑体内包膜に見出されたタンパク質膜透過装置(右下) 大部分の陸上植物で保存されている分子装置。Tic20/56/100は核コード、Tic214のみ葉緑体のycf1遺伝子にコードされています。中核因子のTic20以外は、現存の灰色藻や紅藻では相同タンパク質が見当たらず、内共生成立直後は中核のTic20と共に、より原始的なシステムが働いていたと考えられます(左下)。

図2 葉緑体包膜のタンパク質膜透過装置の欠損変異体が示すアルビノ形質 ショ糖を含む寒天培地で2週間育てたシロイヌナズナ。野生型植物(写真右)が葉緑体が発達した緑色の葉を展開しているのに対し、膜透過装置に欠陥がある植物体(写真左;左下は拡大図)では、葉緑体が発達せず、半透明のアルビノとなる。ショ糖を含む培地では、この段階までは育つが、これ以上大きくはならず、花も種もつけない。

図3 葉緑体包膜でタンパク質の膜透過に関与するメガコンプレックスの構造と機能的連携 葉緑体の2重の包膜をタンパク質は透過して、内部に運ばれていきます。外包膜のTOC複合体、内包膜のTIC複合体、そしてATP加水分解のエネルギー依存的に、葉緑体タンパク質を引き込むモーター複合体が関与します。それぞれが、およその分子量が、100万、100万、200万ものメガコンプレックスであり、機能的に連携してます。

参考文献

Ramundo S, Asakura Y,,,,Nakai M*, Rochaix J-D*, Walter P*. (*Corresponding Author) Coexpressed subunits of dual genetic origin define a conserved supercomplex mediating essential protein import into chloroplasts Proc Natl Acad Sci U S A . Dec 3 (Open Access) in press , 1 - 11 (2020)

Nakai M. The Revised Model for Chloroplast Protein Import. (Open Access) Plant Cell 32(3) , 543 - 546 (2020)

Kikuchi S, Asakura Y, Imai M, Nakahira Y, Kotani Y, Hashiguchi Y, Nakai Y, Takafuji K, Bédard J, Hirabayashi-Ishioka Y, Mori H, Shiina T, Nakai M. A Ycf2-FtsHi heteromeric AAA-ATPase complex is required for chloroplast protein import. Plant Cell (BREAKTHROUGH REPORT) 30(11) (OPEN ACCESS) , 2677 - 2703 (2018)

Nakai M. New Perspectives on Chloroplast Protein Import. (REVIEW) Plant Cell Physiol. 59(6) (OPEN ACCESS) , 1111 - 1119 (2018)

中井 正人. 葉緑体のタンパク質輸送機構についてーシアノバクテリアの内共生から始まったユニークな進化(解説) 生物の科学:遺伝 3月号:特集:真核細胞の共生由来オルガネラ研究最前線ー広がり続ける多様性と機能 70(2) , 105 - 109 (2016)

Nakai M. (Review) The TIC complex uncovered: The alternative view on the molecular mechanism of protein translocation across the inner envelope membrane of chloroplasts. Biochim Biophys Acta 1847(9) , 957 - 967 (2015)

Nakai M. (Commentary) YCF1: A Green TIC Plant Cell 27(7) , 1834 - 1838 (2015)

Kikuchi S, Bédard J, Hirano M, Hirabayashi Y, Oishi M, Imai M, Takase M, Ide T, Nakai M. Uncovering the Protein Translocon at the Chloroplast Inner Envelope Membrane Science 339(6119) , 571 - 574 (2013)

菊地 真吾、平野 美奈子、井出 徹、中井 正人. 明らかになった葉緑体のトランスロコン (解説) 細胞工学8月号 32(8) , 882 - 883 (2013)

Kikuchi S, Oishi M, Hirabayashi Y, Lee DW, Hwang I, Nakai M. A 1-Megadalton Translocation Complex Containing Tic20 and Tic21 Mediates Chloroplast Protein Import at the Inner Envelope Membrane. Plant Cell 21(6) , 1781 - 1797 (2009)

連絡先

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〒565-0871
大阪府吹田市山田丘3−2
Tel: 06-6879-8612
Fax: 06-6879-8613

http://www.protein.osaka-u.ac.jp/enzymology/

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