神経可塑性生理学研究室

Laboratory of Synaptic Plasticity

准教授
冨永(吉野)恵子 (Keiko TOMINAGA-YOSHINO)
mail tomyk @ bio.sci.osaka-u.ac.jp
研究分野

生命機能

所属

生命機能研究科(理学研究科兼任)

ロケーション

吹田地区

研究内容

 わたしたちの「記憶」は、神経細胞同士が情報伝達を行う接点(シナプス)で、活動によって伝達の強度が経験によって変化し(この性質を可塑性という)、その結果神経ネットワークを流れる情報の流路が変わることで成立する、と考えられています。そのうち、一瞬のうちに成立する代り長くは持続しない「短期可塑性」の機構については、近年かなり詳しくわかってきました。実際に、記憶力の優れた(あるいは劣った)マウスも作り出せるようになっています。しかし、ゆっくり成立する代り長期間持続する「長期可塑性」については、ほとんど未解明です。私たちは、長期可塑性の機構解明を目指して、まず解析のための実験系作りから着手しました。そして、長期安定培養下にある薄切脳切片を用い、これに繰り返し刺激を行うことで、長期可塑性をガラス器内で再現できることを見出しました。私たちは、この系がよい実験系になると提唱し、解析を進めています。

活動依存的なシナプス新生とシナプス廃止

 培養脳切片に、短期的にシナプス伝達を強化する(=短期可塑性)刺激を繰り返し与えると、その後ゆっくりとシナプスそのものが増え始め、やがて長期的な強化状態(=長期可塑性)に変換されました。繰り返しは3回必要で、刺激と刺激の間に3-24時間の間隔を空けることが必要でした。これは何を意味しているのでしょう。私たちは、1回目の刺激後3時間で何らかのタンパク質Aが作られ、Aが残っている24時間以内に2回目の刺激がくると、Aの働きを介して第2のタンパク質Bが作られ、Bがあるうちに3回目の刺激がくると、Bの働きを介して初めてシナプスを構造的に作り出す機構のスイッチCが入る、という「3段階仮説」を考えています。しかし、そのAやBやCの正体はまだ謎です。  また、同じ系にシナプス伝達を短期的に弱める(=これも短期可塑性)ような刺激を与えた場合も、これを3回繰り返すとシナプスそのものがゆっくり減り始め、長期的な減弱状態(=これも長期可塑性)に変換されることも見つかりました。このように、強化と弱化が鏡像的になっていることは、その背後に何らかの鏡像的な機構が存在することを示唆しています。

活動依存的なニューロン生存

 神経系がみごとなネットワークを作り上げるのに、一つには、統制された遺伝子発現によって決められた性質の神経細胞が生み出され、決められた経路をたどって移動し、決められた相手を認識して結合する、という遺伝子支配的な戦略もとられますが、もう一つには、たくさん作ってうまくいったらそれを残し、失敗なら捨てるという経験支配的な戦略もとられます。この後者の戦略の内容を、小脳神経細胞の培養系を用いて解析しています。小脳顆粒細胞という神経細胞は、自分たち同士ではシナプス結合を作らないため、普通の条件では培養できませんが、シナプス活動を人工的に再現してやると培養できるようになります。このとき、活動とともに何らかの分子が出されて生存を保証するのだろうと考えられていますが、それが何だか確定していません。私たちは、これまでペプチドやタンパク質について報告してきましたが、最近、ステロイドの役割にも着目して新展開を図っています。

グリア細胞の生理学

 神経系は、神経細胞だけでなく、それを上回る数のグリア細胞によって構成されています。速い電気的な活動を行わないせいもあって、従来グリア細胞は脳内環境の恒常性維持にかかわるだけで、情報伝達にはかかわらないと考えられてきました。しかし近年、神経細胞のもつ分子装置の大部分が、グリア細胞にも備わっていることが明らかになり、神経系においてグリア細胞は、速くはないが重要で多様な役割を果たしていることがわかってきました。私たちは初代培養のグリア細胞や株化グリア系細胞を用いて、グリア細胞の「復権」を図ろうとしています。

図0 脳切片培養(シャーレの中で生き続けるラットの脳)

図1 脳(ラット海馬)切片培養。左はそのままみたところ、右は神経細胞を染色してみたところ。海馬に特徴的なU字を組み合わせた形に神経細胞が並んでいる。

図2 繰り返し強化刺激を受けた神経細胞の形態変化。同一細胞同一個所の経時的観察。左から刺激1日前、3日後、6日後、10日後。茎から飛び出した棘(矢印)のように見えるのがシナプスの構造。

図3 培養下の小脳顆粒細胞。中央の黒い影は橋核(きょうかく)と呼ばれる小脳顆粒細胞に信号を送る神経集団。BCは、Aの中でBCと記した囲み部分の拡大。Bで橋からの線維と接している細胞は生きているが、Cで接していない細胞は死につつある。

参考文献

K. Tominaga-Yoshino et al. Hippocampus 18 , 281 - 293 (2008)

K. Kawaai et al. J. Neurosci. Res. 88 , 2911 - 2922 (2010)

Y. Egashira et al. J. Neurosci. Res. 88 , 3433 - 3446 (2010)

Y. Oe et al. J. Neurosci. Res. 89 , 1419 - 1430 (2011)

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http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/general/lab/18/

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