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研究内容

神経冠細胞の移動
神経冠細胞の発生運命決定機構
神経冠細胞由来幹細胞の形成機構


 脊椎動物の体制進化の 解明に繋がる神経冠発生機構の起源と進化の理解のためには、その機構の実態を細胞/分子レベルで知る必要がある。そこで我々は細胞/分子レベルでの発生 生物学的研究に広く用いられているモデル脊椎動物 (ウズラ・マウス)を材料とし、神経冠発生機構の実態解明を試みている。

神経冠細胞の移動
 神経冠の発生における一つの特徴は、その多様な細胞分 化にある。従来、相反する2つ の説が提唱されていた。神経冠細胞の移動前にすでに個々の細胞の分化能は決定されているとする説と移動後の定着部域の環境因子に応じて分化能が制限されて いくとする説である。そこで、個々の神経冠細胞の分化能が解析できる クローン培養系を確立し、それを用いて、移動前と移動中または移動後の神経冠細胞の分化能を比較した。その結果、神経冠は、移動前において、すでに色々な 程度に分化能が制限されたヘテロな細胞群から成り立っていることが判明した。すなわち、神経冠細胞のすべてが分化多能性を維持したまま定着部域に到達する わけではない。
 クローン培養系で得られた事実は重大である。脊椎動物の基本体制は、神経冠細胞由来の多様な細胞種が、特定の位置で分化することによって構築される。個 々の神経冠細胞の分化能は、定着部域に到達する以前にすでに制限されているわけであるから、もし何の制約も無く細胞移動が起こったならば特定の位置で特定 の細胞種が分化するとは限らない。すなわち、脊椎動物のボディープランは保証されない。クローン培養系で示された事実は、神経冠細胞の移動に脊椎動物の体 制構築の鍵となる規則性が隠されていることを示唆する。そこで我々は、マウスを材料として、神経冠細胞の規則性およびそれを生み出す機構の解明を試みてい る。神経冠細胞の移動様式を解析するためには、移動中の神経冠細胞を他の細胞と識別する必要がある。我々は、マウス神経冠細胞を識別する単クロ−ン抗体の 作製に着手し、
4E9Rの 作成に成功した。4E9の使用により、免疫 組織化学の手法に則って容易に移動中の神経冠細胞の識別が可能になった。4E9Rに よって識別されたマウス神経冠細胞の体幹における移動様式が、共焦点レ−ザ−顕微鏡を用いた3次元 画像解析により、詳細に調べられた。結果は、予想通り移 動領域の制限が示された。さらに、その移動領域の中に特定の移動経路が存在し、それらが時間的にも空間的にも規則的に変化することが判明した。 そして、限られた移動領域と特徴的移動経路およびそれらの時間的/空間的変化の規則性は、神経冠細胞由来のそれぞれの分化細胞種が占める固有の定着部域に ついて十分に説明できるものであった。
 神経冠細胞移動の規則性はどのような機構によって生み出されるのか?この問題を追求していくにあたり、まず我々は移動領域に分布する細外基質分子に注目 した。一連の研究は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン (
CS-PGs)が移動領域の限定 に重要な役割を果たすことを示した。CS-PGsは、移動領域のサイ ズに連動してダイナミックに分布を変化させるばかりでなく、その合成阻害剤で処理された胚においては移動領域の制限が解除された。
 しかし、
CS-PGsによる移動領域の制 限だけで、神経冠細胞移動の規則性のすべてが説明できるだろうか?阻害剤処理胚においても特徴的移経路は消失し なかった。すなわち、移動の規則性は、移動領域の制限ばかりでなくその領域内で特定の分化能を持った神経冠細胞を固有の定着部域に導く機構の2つによって 達成されると考えられる。近年、種々の細胞移動を伴う系において、細胞成長因子をケモアトラクタントとした走化性により、定方向への細胞移動が誘起される ことが報告されている。神経冠細胞の定方向への移動に同様の機構が係わっている可能性は十分に考えられる。我々は、Fibroblast Growth Factor (FGF)-2が走化性物質とし て機能し、神経冠細胞を一定方向に導いていることを突き止めた。FGFが、線虫・ショウ ジョウバエの個体発生においてもケモアトラクタントとして機能しているという最近の報告を考え合わせたとき、この結果はたいへん興味深い。

神経冠細胞の発生運命決定機構
A) マウス神経冠細胞の末梢神経細胞への発生運命決定機構の解析 
  マウス神経冠細胞を用いて、末梢神経細胞への発生運命決定機構の解析を行った。感覚神経への発生運命決定には、転写因子neurogenin (ngn)-1, -2が 重要な働きをしている。すなわち、ngnの 発現制御機構の解明こそが感覚神経の発生運命決定機構解明の鍵である。我々は、シグナル分子Sonic hedgehog (Shh)と低濃度のBone Morphogenetic Protein (BMP)-4が、それぞれngn-1ngn-2の発現を誘導し、感覚 神経への発生運命決定を促進することを明らかにした。一方、高濃度のBMP-4は転写因子Phox2bやmammalian achaete-scute homolog 1 (mash1)を発現する自律神 経細胞への発生運命決定を促進する。さらに、BMPに依存しない未知の因子に よる自律神経細胞への発生運命決定機構も存在した。また、FGFは、Notchシグナルの活性化を介 してマウス神経冠細胞の自律神経細胞および感覚神経細胞への発生運命決定を抑制し、グリア細胞への発生運命決定を促進することがわかった (下図)。









B) マウス神経冠細胞のグリア細胞への発生運命決定機構の解析 
  マウス神経冠細胞のグリア細胞への発生運命決定は、FGFによるNotchシグナルの活性化によ り促進された。そこで、これらの因子の役割をさらに詳細に 解析した。その結果、FGFExtracellular Signal-regulated Kinase (Erk) pathwayAkt pathwayの両経路 を活性化し、両経路によって活性化されたp70S6 Kinase (p70S6K)がNotchシグナルを活性化し た。また、Notchシ グナルに関しても、このシグナルの主要な下流経路であるDeltex経路と転写因子mammalian hairy and enhancer of split homologues (Hes)1, 5の活性化がグリア細胞への発生 運命決定に関与していた。さらにその際、転写因子Nuclear Factor-κB (NF-κB)がNotch細胞内ドメイン (Notch-IC)と相互作用してDeltex-1を活性化するこ とで、マウス神経冠細胞のグリア細胞への発生運命決定を促進していることが判明した (下図)。

C) マウス神経冠細胞の軟骨細胞への発生運命決定機構の解析

  ウズラでの研究により、軟骨細胞への発生運命決定にはFGFが関与していること が報告されている。また、FGFに よってNotchシグ ナルを活性化することも知られていることから、我々はマウス神経冠細胞の軟骨細胞への発生運命決定におけるFGFNotchシグナルの役割を解 析した。その結果、増殖軟骨細胞および前肥大軟骨細胞への発生運命決定は、グリア細胞への発生運命決定機構と同様にFGFによりNotchシグナルが活性化さ れ、促進されることがわかった。しかし、これらのシグナル経路を詳細に解析すると、グリア細胞への発生運命決定機構のシグナル伝達経路とは異なる経路が働 いていた。軟骨細胞の場合、FGFに よって Erk pathwayが活性化されること により転写因子Ets-1が 機能し、Notchシグナルを活性化し ていることが明らかになった。また、Notchシグナルの下流もグ リア細胞の場合と異なり、RBP-J経 路とDeltex経路 の両経路が活性化されていた。活性化された両経路は、その後Hesを活性化し、軟骨細胞への 発生運命決定を促進していることが判明した (下図)。


神経冠細胞由来幹細胞の形成・維持機構
 胚発生後期から成体の個体において、多分化能を有する神経冠細胞由来幹細胞(Neural Crest-derived Stem Cells; NCSCs)がさまざまな組織に存在している。しかし現在までにNCSCsの詳細な形成機構など はわかっていない。我々のこれまでの研究から、クロマチンリモデリング因子の1つであるChromatin helicase DNA binding protein 7 (CHD7)とBMP/WntシグナルのはたらきがNCSCsの形成に関与していることがわかってきた。
 多分化能をもつ神経冠細胞は、転写因子Sox10を発現している。我々の研究から、Sox10を発現する神経冠細胞がCHD7も発現していることがわかった(右図)。また、マウス体幹神経冠細胞を培養すると、培養日数にしたがって、CHD7/Sox10を発現する多分化能を有する神経冠細胞の数は有意に減少した(グラフ)。しかし、これらの減少はBMP2/Wnt3aの添加によるBMP/Wntシグナル経路の活性化や、野生型CHD7発現プラスミド (WT CHD7)の過剰発現によって回復することができた。さらに、別の多分化能神経冠細胞のマーカーであるp75の抗体を用いた実験でも同様の結果が得られた。一方、BMP2/Wnt3aの添加による効果は、dominant negative型CHD7発現プラスミド (DN CHD7)や、CHD7に対するsiRNAの導入により有意に抑制された。これらの結果より、マウス体幹神経冠細胞の多分化能の維持には、BMP/Wntシグナルとクロマチンリモデリング因子CHD7が関与していることが示唆される。すなわち、BMP/Wntシグナルとクロマチンリモデリング因子の相互作用が、NCSCsの形成に関与していると考えられる。

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