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イノシトールリン脂質代謝酵素PTENが細胞膜に連続して結合する現象(hopping)を発見

PTEN hopping on the cell membrane is regulated via a positively-charged C2 domain

Masato Yasui, Satomi Matsuoka and Masahiro Ueda

PLOS Computational Biology, 10, e1003817.
DOI: 10.1371/journal.pcbi.1003817

要約
細胞膜は生体分子による反応の場であり、タンパク質と細胞膜との相互作用は様々な細胞機能発現の基盤をなす。がん抑制因子であるPTENはイノシトールリン脂質の代謝酵素として細胞膜へ局在することで活性を発揮する。この活性はがん抑制のみならず移動細胞における極性形成にも不可欠であることが知られている。しかし、PTENはサブ秒のオーダーで細胞膜と細胞質を行き来しており、膜への局在量を制御するメカニズムは完全にはわかっていない。そこで、1分子イメージングにより細胞性粘菌の細胞膜上におけるPTEN1分子の動きを計測し解析をおこなった。そして、PTENが細胞膜上をhopする現象を発見した。これは、細胞膜との相互作用が数十ミリ秒の間隔をおいて連続して起こるもので、タンパク質の細胞膜への局在化の新しい仕組みといえる。われわれは、細胞膜への再結合が起こる確率密度を時空間的に算出する解析法を開発することで、この現象を統計的に確認することに成功した。本解析の結果、PTENのC2ドメイン表面で塩基性アミノ酸が多く存在する部分(クラスター)の正電荷と細胞膜の酸性リン脂質の負電荷との間の静電的相互作用に依存してhoppingが起こることを明らかにした。野生型PTENではhoppingは比較的抑制されているが、変異によりクラスターの電荷を適度に減らすとhopping確率が上昇して再結合しやすくなる。細胞内では、細胞膜上の酸性リン脂質密度の微視的な低下により静電的相互作用が適度に弱まるとhoppingが頻発し細胞膜から離れにくくなることが予想される。クラスターの電荷をさらに減らすと細胞膜結合の安定性が失われ膜局在量が激減した。こうした変異型は、多細胞体形成がうまく出来ず子孫を残すことができない。上記のことから、本研究で発見した静電的相互作用はPTENの細胞膜局在量を調整する重要なメカニズムであることが示唆された。この塩基性アミノ酸クラスター内にはがん細胞で変異が入っている残基が存在し、種を超えてPTENの膜局在量と活性を制御する上で本質的な役割を担っていると考えられる。

論文へのリンク
http://www.ploscompbiol.org/article/info:doi/10.1371/journal.pcbi.1003817

上田研究室ホームページ
http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/bio_web/lab_page/ueda/index.html




(A) 細胞内でPTENが膜上をHopする様子。通常の膜拡散よりも速い速度で連続して膜上を移動する。黄色の線はPTEN一分子の軌跡であり、数値は経過時間(msec)、スケールバーは1 μmである。
(B) PTENの膜上状態モデル。膜上でPTENは、安定化状態、C2ドメインの正電荷に依存した状態、そしてHoppingの状態をとる。安定化状態の場合、細胞膜からの解離がおこりにくい。C2ドメインの正電荷が安定化状態を導き、PTENが膜上に滞在しやすくなる。