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細胞運動の制御に関与するPTENが細胞後部へ局在する仕組みを1分子レベルで解明した

Asymmetric PTEN Distribution Regulated by Spatial Heterogeneity in Membrane-Binding State Transition

Satomi Matsuoka, Tatsuo Shibata and Masahiro Ueda
PLoS Computational Biology, doi: 10.1371/journal.pcbi.1002862

要約
移動運動している細胞には明確な前後極性が存在し、前側で活発なアクチンの重合によって仮足を形成することで細胞は前進する。細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)では、アクチン重合を活性化するシグナル分子であるイノシトール3リン酸(PI(3,4,5)P3)の濃度を仮足のみで高く保つために、PTENが仮足以外の細胞膜に存在してPI(3,4,5)P3を分解する結果、効率の良い移動運動が実現される。PTEN分子が集団として細胞後部の細胞膜により多く存在(局在)するために、個々の分子の細胞膜への結合はどのように制御されているのだろうか?我々は、1分子イメージングによって可視化された分子が細胞膜に結合してから解離するまでにたどる反応過程をキネティクスとともに推定する統計解析法(lifetime-diffusion解析法)を開発し、PTENの細胞後部への局在が形成されるメカニズムを明らかにした。静止状態の粘菌細胞で変異型PTENを用いて基本的な膜結合反応過程を解析した結果、細胞膜に滞在する間に拡散の速さの違う3種類の細胞膜結合状態を遷移することを明らかにした。これらの3つの状態は拡散係数の大きさの順に細胞膜からの解離速度定数も大きく、拡散の遅い安定結合状態をとるか拡散の速い弱結合状態をとるかにより細胞膜結合時間が延長あるいは短縮されることがわかった。さらに、仮足あるいは細胞後部で観察された分子から推定された反応キネティクスを比較した結果、仮足では安定結合状態が抑制されることを明らかにした。このため仮足では平均して結合分子数が少なく拡散が速く細胞膜結合時間が短くなっており、結果として細胞膜上での分子集団の局在が生じることをシミュレーションによって再現できた。個々の分子の確率的な状態遷移に基づいて細胞膜上での分子集団の分布を制御する仕組みが初めて明らかとなり、個々の分子と分子集団の挙動をつなぐ論理を構築することができた。

論文へのリンク
http://www.ploscompbiol.org/article/info:doi/10.1371/journal.pcbi.1002862

上田研究室ホームページ
http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/bio_web/lab_page/ueda/index.html




(A) PTENの細胞膜結合状態遷移モデル。拡散係数と解離速度定数の異なる3つの細胞膜結合状態の間の遷移反応のキネティクスが仮足と細胞後部では異なる。これにより細胞膜上での前後非対称な分布が形成されると考えられる。
(B) PTENの1分子の分子運動の様子。仮足の細胞膜では1分子の結合時間が短く2次元拡散が速い。