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アメーバ運動を再現する計算モデルの構築に成功した.

Non-Brownian dynamics and strategy of amoeboid cell locomotion

Shin I. Nishimura, Masahiro Ueda, and Masaki Sasai
Physical Review E, 85, 041909 (2012)
Doi: 10.1103/PhysRevE.85.041909

要約
生物は細胞から構成されているが、その中にアメーバ型細胞と呼ばれる不定形の細胞が存在する。我々の体の中では免疫細胞やがん細胞の一部などがアメーバ型細胞に相当する。アメーバ型細胞は多細胞生物のみならず単細胞生活を行う生物にも見られ、細胞性粘菌などがその代表例である。これらの細胞は外からシグナルがなくともランダムに動き回る。しかしながら、近年そのランダムな運動は通常のブラウン運動とは異なる「超拡散」性を持つことがわかってきた。ブラウン運動の平均自乗軌道距離(MSD)は必ず経過時間に比例するが、MSDは時間の冪で増加し、その指数は1よりも大きい。これは細胞が運動方向を記憶するなんらかの機構をもっていることを意味している。我々(西村、上田、笹井)はこの現象を説明するために、Cortical Factor Feedback (CF Feedback)仮説を考案した。この仮説では、アクチン重合を抑制する因子が細胞の移動とは逆方向に流動し細胞尾部に蓄積することで、尾部でのアクチン重合を阻害するが、頭部では流動によって低い濃度となりアクチン重合が抑制されず、さらに細胞が前進する。CF Feedback 仮説は直進性しか説明できないように見えるが、モデルパラメータの設定によってはゆらぎを増幅し方向転換する。この直進性とゆらぎによる方向転換は、アメーバ型細胞の超拡散性を定量的に説明する。さらにCF Feedback 仮説はアメーバ型細胞の「賢さ」をも予言する。走化性因子があるソースから分泌されているが障害物があって直接たどり着けない場合でも、ときどき走化性因子の濃度勾配に逆らって障害物を迂回しソースに到達することが計算機によって示された。我々の体の中では日々リンパ球などが往来しており、炎症箇所に到達するためには結合組織を通りぬけなければならないが、結合組織は繊維状でその隙間を通過しなければならず、障害物の迂回などが実際に行われていることが示唆される。 (本研究成果は,上田(著者の一人)の前所属での研究に基づいていますが,本専攻でも継続・進展させる予定です.)

論文へのリンク
http://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevE.85.041909

上田研究室ホームページ
http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/dbs01/re-paper-temp.php?id=80




図: アメーバ型細胞は超拡散性の運動を行うことにより、障害物を迂回して誘引物質源に近づけることが計算機シミュレーションによって示唆された。(×) 誘引物質のソース源。白いバーが障害物。赤いバーからは誘引物質が漏れ出てくるという設定になっている。細胞の運動方向が誘引物質の濃度勾配によってのみ決定されるのであれば、細胞は障害物の角にトラップされて動けなくなる(赤いバーから漏れ出てくる誘引物質のため)。しかしながら、細胞は超拡散性の自発運動を行うため、瞬間的には間違った方向に行くが、長い時間では障害物を避けて誘引物質のソースに近づける経路を見つけ出すことができる。