2 ワカレオタマボヤの飼育

 生物の研究を始めるには、まず実験動物の採集と飼育を行わなければなりません。ここでは、ワカレオタマボヤの飼育について説明をして行きましょう。

 私たちの研究室では、海で採集してきたワカレオタマボヤを、フランス(CNRS/UPMC-Villefranche-Sur-Mer)・ノルウェイ(Sars)の研究所で開発された飼育方法を元に研究室内で継代飼育(長期に渡り飼育を続けること)しています。

2-1 飼育の様子

 研究室内では、現在、和歌山県の田辺湾(協力:京都大学フィールド科学教育センター瀬戸臨海実験所、www.seto.kyoto-u.ac.jp)で採集してきたオタマボヤを、写真で示すような飼育装置で育てています。

(左)研究室内での飼育の様子
手作りの飼育棚に飼育装置を棚に並べています。飼育室では、常に水温が19℃〜20℃に保たれています。一つのビーカーに5Lの人工海水を入れ、ここに80匹以上のオタマボヤを入れて育てています。
(右)飼育装置
5Lビーカーに人工海水を入れ、電気モーターでプラスチックの羽根をまわすことで水流をおこします。底には粒状の活性炭を敷いています。この活性炭にはオタマボヤの排出物等を分解するバクテリアが付着しており、海水をきれいに保っています。また、棚板には黒い部分と無色透明な部分があり、下から蛍光灯を照らすと、光が屈折してビーカー内のオタマボヤが見やすくなっています。

2-2 ワカレオタマボヤの餌

 ワカレオタマボヤの餌は植物プランクトンの藻類です。以下に示すような大きさの異なる4種類の藻類を培養し、毎日一定量を餌として与えています。

 次は、餌の培養の様子です。藻類は盛んに増殖している段階ではとても鮮やかな色をしており、藍藻は緑色、赤色鞭毛藻は赤色、緑色鞭毛藻と珪藻は黄色をしています。

(左)インキュベーターにある餌のストックです。ストックはマザーカルチャー、プレカルチャーの二段階に分けて、三角フラスコで培養しています。
(右)こちらは直接餌として与える用に培養しているものです。プラスチック袋で培養しており、エアレーション(培養液中に空気を送ること)を行って増殖を早め、常に盛んに増殖中の餌を与えられるようにしています。

2-3 ワカレオタマボヤの飼育の仕方

 私たちの研究室での飼育法の最大の特徴は、人工海水を用いていることです。これまで、ワカレオタマボヤの継代飼育は、海の近くの研究所で天然海水を用いて行われてきました。私たちの研究室は海から離れており、何種類もの人工海水を試した結果ロートマリン(人工海水ROHTOMARINE 株式会社レイシー)という人工海水で飼育できることを確認しました。私たちの研究室では、この人工海水を用いて15か月以上も飼育を続けたことがあり、これは世界最長記録です。

ロートマリン

 研究室のオタマボヤの担当者が、朝研究室に来て最初にすることがオタマボヤの飼育です。毎日、餌を与えたり、新しい海水に移す作業を行います。

 飼育のスタートから飼育が軌道に乗るまでについて話をして行きましょう。

 まず、海で汲んで来た天然海水からオタマボヤを探し出し、ビーカーに集めます。採集してきた海水には、ワカレオタマボヤ以外のオタマボヤが混じっていることもよくあります。このようにしてワカレオタマボヤのみを集めたビーカーを用意し、このビーカーから飼育をスタートします。

 次に成長段階ごとに別々のビーカーにより分けます。飼育室の温度を20℃前後に保ち、ワカレオタマボヤのライフサイクルを4日で回るようにしていることから、4つの段階に分け、それぞれ成長段階の早いものからD1、D2、D3、D4(成熟体)と名付けます。D1サイズのオタマボヤは翌日にD2サイズになり、さらに2日後に成熟体であるD4サイズになります。

 さて、ここで一つのビーカーの飼育サイクルについて説明します(図1)。オタマボヤがD3サイズになると、ガラスピペットで一匹一匹計80匹程新しい人工海水に移します。新しい海水に移されたD3のオタマボヤは餌をどんどんと食べて大きくなり、翌日急速に生殖巣が発達し(雌雄の区別が付くようになるのはこの段階です)、放卵・放精します。このように5Lビーカー中で放出された卵と精子は自然に受精し、ふ化・変態を経て、放卵・放精の翌日にはビーカー内で大量にD1が生じます。高すぎる密度はオタマボヤの成長を阻害する要因となるので、ここで海水の希釈を行います。そしてD3サイズに成長すると、再び新しい海水に移します。そして、成熟、放卵・放精というサイクルが繰り返されます。

図1

 実際には、毎日D1〜D4の全てのステージのオタマボヤが採取できるように合計4つのラインを飼育しています。模式図に示すと図2のような形で飼育を行っています。

図2

3 研究の背景と概要へ

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